導入
JAXAの宇宙飛行士候補者に選ばれた六太は、いよいよNASAでの本格的な訓練を開始します。しかし宇宙飛行士候補者に選ばれたことはゴールではなく、むしろスタートラインに立っただけ。ここからの訓練は想像以上に過酷で、候補者であっても宇宙に行ける保証はどこにもありません。
一方、弟の日々人は月面事故の後遺症に苦しんでいました。かつて自信に満ち溢れていた日々人が、宇宙服を着るだけでパニック発作を起こすようになる。兄弟それぞれが異なる壁に直面する中で、二人の絆が改めて試されるのがこのNASA訓練編です。
単行本12巻から17巻に収録されるこのパートでは、六太の訓練生活を軸に、日々人の再起、せりかやケンジとの関係の深まり、そしてシャロンの病気発覚という衝撃が描かれます。
この記事でわかること
- NASAでの宇宙飛行士訓練の具体的な内容
- 日々人のパニック障害と克服への道のり
- せりか、ケンジとの絆が深まるエピソード
- シャロンのALS発覚と六太への影響
- 六太が月面ミッションのクルーに選ばれるまで
読了時間:約18分 | おすすめ度:★★★★★
基本情報
【NASA訓練編 基本情報】
- 収録:単行本12巻〜17巻
- 連載誌:モーニング(2007年〜連載中、既刊45巻)
- 作者:小山宙哉
- 主要キャラ:南波六太、南波日々人、伊東せりか、真壁ケンジ、シャロン、ビンセント・ボールド
- 核となるテーマ:挫折からの再起、仲間の支え、夢と現実の狭間
- 重要な要素:T-38訓練、サバイバル訓練、パニック障害、ALS
あらすじ
ここから先、NASA訓練編のネタバレを含みます
NASAでの訓練開始
ヒューストンにあるNASAのジョンソン宇宙センターで、六太の訓練が始まります。宇宙飛行士候補者(アスキャン)として過ごす日々は、理想と現実のギャップを痛感するものでした。
訓練内容は多岐にわたります。T-38ジェット練習機の操縦訓練、国際宇宙ステーション(ISS)のシステム学習、ロシア語の習得、サバイバル訓練、水中での船外活動訓練(NBL)。宇宙飛行士には幅広いスキルが求められ、一つでも不足があれば宇宙に行くことはできません。
六太は訓練の中で自分の弱点と向き合い続けます。T-38の操縦では他の候補者に後れを取り、ロシア語の学習にも苦戦する。しかし六太には「考え続ける力」があります。問題にぶつかった時、諦めるのではなく、別の角度から解決策を探し続ける。その粘り強さが訓練を通じて評価されていきます。
ビンセント・ボールドとの出会い
NASAでの訓練生活で六太に大きな影響を与えるのが、ベテラン宇宙飛行士のビンセント・ボールドです。過去に宇宙ミッションで仲間を失った経験を持つビンセントは、六太の指導役となりますが、その指導は厳しいものでした。
ビンセントが六太に教えるのは、技術だけではありません。宇宙飛行士として最も大切なのは「判断力」であること。極限状態でパニックに陥らず、最善の判断を下せる冷静さ。ビンセント自身が失敗から学んだその教訓は、のちに六太の月面ミッションで大きな意味を持つことになります。
日々人のパニック障害
月面事故で九死に一生を得た日々人でしたが、その後遺症は身体ではなく心に現れました。宇宙服を着るだけで呼吸が乱れ、動悸が激しくなるパニック障害を発症してしまったのです。
かつて「怖いもの知らず」と呼ばれた日々人が、恐怖に支配される。それは日々人にとって、月面事故以上の試練でした。宇宙飛行士として致命的な障害を抱えた日々人は、NASAでの活動を一時休止せざるを得なくなります。
日々人のパニック障害の描写は丁寧かつリアルです。突然襲ってくる発作、それを隠そうとする日々人のプライド、周囲の心配と戸惑い。精神的な病気を正面から描くことで、宇宙兄弟は「夢を追う物語」にとどまらない深みを獲得しています。
六太は弟の異変に気づきますが、直接的に助けることはしません。日々人のプライドを理解しているからです。しかし六太なりの方法で、さりげなく日々人を支えようとします。兄弟の距離感の描き方が絶妙で、過干渉でも無関心でもない、大人の兄弟関係が丁寧に表現されています。
日々人の再起とロシアでの修行
パニック障害を克服するため、日々人はロシアに渡ります。ロシアの宇宙飛行士訓練施設で、極限状態での恐怖と向き合う修行に身を投じるのです。
ロシアでの日々人の姿は、それまでの明るく自信に満ちた姿とは全く異なります。恐怖に怯え、自分を信じられなくなった日々人。しかし彼はそこで大切なことに気づきます。恐怖は消えない。消す必要もない。恐怖を抱えたまま前に進めばいい。
日々人の再起は、六太とは異なるアプローチの「自分自身との戦い」です。六太は自信のなさと戦い、日々人は恐怖と戦う。兄弟それぞれが異なる壁に挑み、異なる方法で乗り越えていく構成は、作品全体に奥行きを与えています。
せりかとの関係
NASA訓練編を通じて、六太とせりかの関係は確実に深まっていきます。せりかもまた宇宙飛行士候補者としてNASAで訓練を受けており、六太とは同期として切磋琢磨する関係です。
せりかが宇宙を目指す理由は、父をALSで亡くした経験にあります。宇宙での無重力環境を活かした医学研究を通じて、ALSの治療法開発に貢献したい。その明確な動機と揺るがない意志は、六太にとって大きな刺激となります。
六太とせりかの関係は恋愛要素を含みつつも、それ以上に「同じ夢を追う仲間」としての信頼関係が丁寧に描かれています。互いの弱さを知り、それでも尊敬し合える関係。宇宙兄弟が描く人間関係の豊かさが、このパートで最も際立ちます。
シャロンのALS発覚
六太と日々人の恩人であるシャロンが、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症していることが明らかになります。この知らせは六太に大きな衝撃を与えます。
ALSは全身の筋肉が徐々に衰える難病で、現在の医療では根本的な治療法がありません。シャロンが星を見ることも、望遠鏡を覗くことも、やがてはできなくなっていく。兄弟に宇宙の素晴らしさを教えてくれたシャロンが、その星空を見られなくなるという残酷な現実。
しかしシャロンの病気は六太に新たな目標を与えます。月面に天文台を作ること。シャロンが地上で見られなくなった星を、月面から見せてあげること。六太の宇宙を目指す理由に、弟との約束に加えてシャロンへの恩返しという新たな動機が加わるのです。
せりかの父もALSで亡くなっています。この共通点は六太とせりかの絆をさらに深めると同時に、ALSという病気そのものに対する物語のアプローチを重層的なものにしています。
月面ミッションのクルー選出
訓練を重ねた六太は、ついに月面ミッションのクルー候補として名前が挙がるようになります。しかし候補者は複数おり、最終的にクルーに選ばれるかどうかは保証されていません。
六太の強みは、技術面での突出した能力ではなく、チームをまとめる力と、問題発生時の冷静な判断力にあります。訓練を通じて六太自身もそれを自覚し始め、「自分にしかできないこと」を見出していきます。
見どころ
パニック障害のリアルな描写
日々人のパニック障害の描写は、宇宙兄弟が単なる「夢追い物語」ではないことを示しています。月面事故というトラウマが、最も自信に満ちた人間をも打ちのめす。精神的な病気は誰にでも起こりうるものであり、それを「弱さ」として描くのではなく、「乗り越えるべき壁」として正面から扱っている点は高く評価できます。
日々人がパニック障害を克服していく過程は、段階的かつ説得力のある描写です。すぐには治らない。薬を飲めば解決するわけでもない。時間をかけて、少しずつ、自分のペースで。その「焦らない回復」の描き方は、精神疾患に対する理解を深めるものでもあります。
訓練シーンのリアリティ
NASAでの訓練シーンは、実際の宇宙飛行士訓練に基づいた緻密な描写が特徴です。T-38の操縦訓練の緊張感、NBL(無重力環境模擬訓練施設)での水中訓練の過酷さ、シミュレーターでの緊急事態対応。
小山宙哉はNASAやJAXAへの取材を重ねており、その成果が訓練シーンの説得力に直結しています。読者は六太と一緒にNASAでの訓練を疑似体験しているような感覚を味わえます。
シャロンの病気がもたらす物語の深み
シャロンのALS発覚は、物語に新たな次元を加えます。宇宙を目指す理由が「自分の夢」から「大切な人のために」へと拡張されることで、六太の行動にさらなる切実さが宿ります。
シャロンは自分の病気を嘆くのではなく、六太と日々人の成長を喜び続けます。自分が星を見られなくなっても、兄弟が宇宙から見てくれるなら、それで十分だと。シャロンの強さと優しさは、六太の宇宙への想いをより強固なものにしていきます。
名シーン
日々人のパニック発作
宇宙服を着た瞬間、日々人の表情が一変するシーン。かつて月面でガッツポーズを見せた日々人が、同じ宇宙服を着て恐怖に震える。その対比は衝撃的です。
日々人が発作を周囲に隠そうとする姿、それでも隠しきれない苦しみ。自信満々の弟が初めて見せる「弱さ」に、読者は胸を締めつけられます。
六太がシャロンの病気を知る瞬間
シャロンがALSであることを知った六太の反応は、怒りでも悲しみでもなく、静かな決意でした。「シャロンのために何かしたい」。その想いが、月面天文台という具体的な目標として結実していく過程は、宇宙兄弟ならではの感動的な展開です。
ロシアでの日々人の覚醒
極限状態の訓練を経て、日々人が再び宇宙服を着ることができるようになるシーン。恐怖が完全に消えたわけではありません。しかし恐怖を抱えたまま前に進む勇気を、日々人は取り戻しました。
「怖くないから行くんじゃない。怖いけど行くんだ」。日々人のこの覚悟は、パニック障害に限らず、あらゆる恐怖と向き合う人々への力強いメッセージです。
T-38訓練での六太の成長
六太がT-38ジェット練習機の操縦で成長を見せるシーン。最初は他の候補者に大きく後れを取っていた六太が、持ち前の粘り強さと観察力で着実にスキルを向上させていく姿は、地味ですが確かな感動があります。
キャラクター解説
南波六太(NASA訓練期)
JAXA選抜試験を突破し、NASAでの宇宙飛行士訓練に臨む六太。訓練を通じて自分の強みと弱みをより明確に認識していきます。
技術面では他の候補者に劣る場面もありますが、六太の真価は「人間力」にあります。チーム内のコミュニケーションを円滑にする力、問題を多角的に捉える視点、そして諦めない粘り強さ。NASAの訓練官たちも、六太のこの特質を評価していきます。
南波日々人(パニック障害期)
月面事故の後遺症でパニック障害を発症した日々人。かつての自信と明るさは影を潜め、恐怖と不安に支配された日々を送ります。
しかし日々人の根本的な強さは失われていません。ロシアでの修行を通じて恐怖を受け入れ、再び宇宙を目指す決意を固めていきます。パニック障害を経験した日々人は、以前よりも深みのある人物へと成長しています。
ビンセント・ボールド
NASAのベテラン宇宙飛行士で、六太の訓練指導を担当。過去にミッションで仲間を失った経験を持ち、その教訓を六太に伝えようとします。
ビンセントの教えは「宇宙で最も大切なのは判断力」。技術は訓練で身につくが、極限状態での判断力は人間としての器そのものが問われる。この教えは六太の宇宙飛行士としてのスタイルに大きな影響を与えます。
伊東せりか(NASA訓練期)
六太と共にNASAで訓練を受けるせりか。医師としての知識を活かしつつ、宇宙飛行士としてのスキルを着実に磨いています。
シャロンのALS発覚を受けて、せりかは自分の父の経験と重ねます。ALSという共通の敵に対して、せりかは宇宙医学研究を通じて戦うことを改めて決意。六太とせりかの絆は、個人的な感情だけでなく、ALSに立ち向かうという共通の目標によってさらに強固なものとなります。
真壁ケンジ(NASA訓練期)
ケンジもNASAでの訓練を受けています。家族と離れてヒューストンで暮らす日々は、妻子持ちのケンジにとって特に辛いものです。しかしケンジは「家族のためにも夢を諦めない」という姿勢を貫いています。
ケンジが訓練中に家族とビデオ通話をするシーンは、宇宙飛行士の日常の一コマとして印象的です。子供の成長を画面越しに見守りながら、自分の選んだ道を信じ続けるケンジの姿は、六太とは異なる形での「夢の追い方」を示しています。家庭を持つ読者にとっては、六太以上に感情移入しやすいキャラクターかもしれません。
まとめ
NASA訓練編は、宇宙兄弟が「夢を目指す物語」から「夢を実現するための具体的なプロセスの物語」へと深化するパートです。訓練の過酷さ、日々人のパニック障害、シャロンの病気。華やかな宇宙への夢の裏側にある、地道で厳しい現実が丁寧に描かれています。
特に日々人のパニック障害の描写は、宇宙兄弟という作品の懐の深さを示すエピソードです。才能があっても挫折する。自信があっても崩れる。しかしそこから立ち上がることができる。兄弟それぞれが異なる壁に挑む姿は、「夢を追うこと」の多面的な意味を教えてくれます。
シャロンのALS発覚は、六太の物語に新たな切実さを加えました。月面に天文台を作る。シャロンに宇宙からの星を見せる。その目標は、次章「月面ミッション編」で現実のものとなっていきます。六太はいよいよ、宇宙飛行士としての本番に臨みます。
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